
たった一度の情報漏えいで、損害賠償は数千万円〜数億円の損害賠償。さらには営業停止までに発展…。たとえ何年、何十年と信用を積み上げてきたとしても失墜するのは一瞬です。
小規模ECほど狙われやすく、「今まで問題なかった」「自分は大丈夫」という油断こそが最大の脆弱性といえるでしょう。
とくにECサイトは住所やクレジットカード情報を扱う以上、法令上の対策義務があり、事故が起これば取引先・顧客・金融機関からの信頼を失い、事業継続すら危うくなります。
セキュリティ対策を怠った場合、次の重大リスクが発生します。
- 多額の損害賠償と復旧費用
- 企業としての信用と顧客離脱
- 法令違反による行政処分や制裁
セキュリティはコストではありません。何よりも自分自身のEC事業を守るための最低条件であり、必須条件です。
本記事では、ECサイトが直面する主要リスクと、今すぐ行うべき対策をわかりやすく解説します。まずは、自社サイトが本当に安全なのか確認しましょう。
目次
ECサイトでセキュリティ対策が超重要視される6つの理由

引用元:https://pixabay.com/photos/lightbulb-light-idea-hand-7636222/
ECサイトでセキュリティ対策が重要視される最大の理由は、トラブルが発生した際の損失が非常に大きいことです。また、個人情報や決済情報が漏えいすれば、企業の信用が失われ、事業全体に深刻な影響を及ぼします。
以下で、ECサイト運営でセキュリティ対策が欠かせない6つの理由について解説します。
1.被害発生時の損失が甚大
ECサイトで不正アクセス、情報漏えい、Webサイト改ざんなどのセキュリティ事故が発生した際は、損害額が数千万円から数億円規模になることも珍しくありません。補償費用・顧客対応・広報、システム改修など、多方面で莫大なコストが発生します。
実際の判例を見ても、個人情報漏えいでは1人あたり数千円〜数万円の損害賠償が認められており、被害者数が多いほど総額が膨れ上がります。
とくに中小企業の場合には、一度のセキュリティ事故で経営が立ち行かなくなるケースもあります。ECサイトのセキュリティ対策は、コストではなく企業のための予防投資です。
2. 個人情報・決済情報を扱うため
ECサイトでは、住所・氏名・電話番号・クレジットカード番号などの重要な情報を扱います。このような重要な個人情報が漏えいすれば、顧客に対する金銭的損害やプライバシー侵害に直結します。
情報流出が明るみに出れば、「このECサイトは信用できない」と顧客が離れてしまうおそれがあるでしょう。一度信頼を失うと、再購入やリピーターの獲得は今までよりも一気にハードルが高くなってしまいます。
ECサイトのセキュリティ対策は、 顧客情報を保護し、ビジネスの信頼を保つための重要な基盤です。
3.信用失墜=売上に直結するため
ECサイトでセキュリティ事故が起これば、SNSやニュースなどで一瞬にして拡散されます。信用を失えば、ECサイトを利用する顧客は減少します。さらに、ブランドイメージが傷付けば、信頼回復のために膨大な時間と費用が必要です。
安心感はECサイトの競争力のひとつであり、セキュリティ対策は顧客からの信頼という目に見えない資産を守る手段です。
4.法律・規制で義務付けられているため
ECサイトのセキュリティ対策は選択ではなく、義務として求められています。個人情報保護法やクレジットカード業界の国際的なセキュリティ基準であるPCI DSSなど、EC事業者にはさまざまな法令やガイドラインが適用されます。
また、クレジットカード・セキュリティガイドラインでは、2025年3月末までにECサイトへの3Dセキュア2.0の導入を求めています。違反によって行政指導や損害賠償に発展することもあるため、「知らなかった」では済まされません。
ECサイトのセキュリティ対策は、努力義務ではなく事業継続の条件と捉える必要があります。
参考:「クレジットカード・セキュリティガイドライン」が改訂されました (METI/経済産業省)
5.サイバー攻撃の増加と巧妙化
ECサイトに対するサイバー攻撃は増加しており、常に最新のセキュリティ対策を講じる姿勢が重要です。脆弱性を突く「SQLインジェクション」や「不正ログイン」など、サイバー攻撃の手口は日々巧妙化しています。
とくに中小規模ECサイトはセキュリティが甘いと見られて狙われる場合もあります。サイバー攻撃は、大手だけでなく小規模ECサイトも標的です。事業規模の大小を問わず、ECサイトのセキュリティ対策は必須といえるでしょう。
6.利用者の購買意欲に直結するため
多くのユーザーは、ECサイトの安全性を購入の判断基準にします。安全性の見える化は、ECサイトの売上を左右する重要なポイントです。
「https://」で始まっているか、鍵マークがついているかなどが、安全性の具体的な判断基準です。
安心して購入できるという信頼感は、商品やサービスの購入率(CVR)向上につながります。反対に、セキュリティ対策が不十分だと、購入途中で離脱するカゴ落ちを増やす可能性があります。
代表的なセキュリティ事故と実際の事例

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ECサイトにおけるセキュリティ対策をより深く理解するには、実際に起きた具体的な事例を知ることが効果的です。以下で、ECサイトにおける代表的なセキュリティ事故や事例について解説します。
クレジットカード情報の流出
ECサイトの決済画面や不正アクセスにより、カード番号・有効期限・セキュリティコードなどが盗まれる事件は後を断ちません。フィッシングメールや偽のSMSの送信、偽装されたチェックアウトページへの誘導、入力フォームの改ざんなど、攻撃者はさまざまな手口を駆使します。
実際に日本国内でも、大手コーヒーチェーンやスポーツチームの公式ストアなどで、数千から数万件規模のクレジットカード情報の流出事件が発生しました。ECサイト側のセキュリティ対策としては、決済代行サービスの利用やPCI DSSへの準拠が挙げられます。
不正ログイン(アカウント乗っ取り)
攻撃者にアカウントを利用される不正ログインは、不正購入や個人情報の窃取を目的に行われます。ユーザーが複数サイトで使い回しているIDとパスワードを悪用してログインを試みる「パスワードリスト攻撃」が、不正ログインの代表的な手口です。
不正購入やポイントの不正利用などが発生した場合、企業側も補償対応に追われます。そのため、ECサイトにおける多要素認証(2段階認証)やログイン試行回数の制限により、被害を未然に防ぐ対策が求められます。
個人情報データベースの漏洩
サーバーやクラウドの設定の不備や脆弱性を突かれ、個人情報が大量流出する事故も発生しています。2024年には大手エンターテイメント企業がサイバー攻撃を受け、約25万人の個人情報の流出する事件が発生しました。
名前・住所・メールアドレスなどの個人情報の漏えいは、フィッシング詐欺をはじめとした二次被害につながる危険があります。アクセス権限の最小化、通信データの暗号化、監査ログの管理などを徹底することで、個人情報漏えいのリスクを最小限に抑えることが可能です。
サイト改ざんによるマルウェア感染
ECサイトのソースコードの改ざんによるマルウェアへの感染は、重大なセキュリティ事故です。情報の窃取、サイバー攻撃の踏み台にされるといった事象につながれば、ブランドイメージが大きく損なわれます。
また、マルウェア感染は発見が遅れやすく、ECサイトを訪れたユーザーにも被害が広がる可能性があります。マルウェアを埋め込むMagecart攻撃などが世界的に拡大しており、多数のECサイトでユーザーのクレジットカード情報が盗まれました。
WAF(Web Application Firewall)の導入、改ざん検知機能を備えたセキュリティソフトの導入、ソフトウェアを常に最新状態に保つことなどが、マルウェア対策として有効です。
WAFは不正な通信を遮断するため、Webサイトの改ざんを狙う攻撃や脆弱性を狙った通信などへの対処に効果を示します。
DDoS攻撃
DoS攻撃・DDoS攻撃は、大量のアクセスやデータ送付によりサーバーをダウンさせる攻撃です。DDoS攻撃を受けるとECサイトの動作は重くなり、最悪の場合にはアクセスができなくなります。
ユーザーはECサイトが利用できなくなるため、機会損失や信頼の低下を招きます。また、セールやキャンペーン時にDDoS攻撃を受ければ、大幅に利益を損ねる恐れがあるため十分な対策が必要です。
DDoS攻撃の対策には、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)やクラウド型WAFの導入が有効です。
CDNは大規模配信に特化したネットワークで、DDoS攻撃による大量アクセスを分散し、サーバーダウンを防ぎます。WAFは不正な通信を遮断するため、DDoS攻撃対策として有効です。
セキュリティ対策の基本的な知識と重要なポイント

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通信の暗号化、システムの最新版の維持、ログ管理、ECサイト構築システムの利用など、ECサイトのセキュリティ対策の基本知識と重要ポイントについて解説します。
自作でECサイト作成するのではなく、有名なECサイト構築システムを利用する
自社でECサイトをイチから構築するよりも、信頼性の高いECサイト構築システムを利用すると、結果的にセキュリティ対策の強化につながります。
Shopify・BASE・イージーマイショップなどの主要プラットフォームでは、最新のセキュリティ対策が標準で行われています。たとえばイージーマイショップでは、常時SSL化・脆弱性診断・ハイブリッド指紋認証といった業界トップクラスのセキュリティ対策に対応しています。
ECサイトを自社で開発する場合には、サーバー監視や脆弱性対応など専門知識と継続的なメンテナンスが必要です。一方、プラットフォームを利用すれば、自動で最新の状態にアップデートされるため、セキュリティの水準を手軽に維持できます。
さらに、不正アクセス検知や決済システムの安全性も高く、ユーザーに安心感を与えられます。プラットフォームを活用してセキュリティリスクを低減すれば、運営者は商品企画や販売戦略など本質的な業務に集中できる点もメリットです。
SSL/TLSによる通信の暗号化
ECサイトでは、ユーザーが入力する名前・住所・電話番号・カード情報などの機密データを暗号化するために、SSL/TLS対応が欠かせません。SSL/TLSとは、通信データを暗号化・復号化することで第三者による盗聴や改ざんを防ぐ技術です。
SSL/TLSに対応したECサイトでは、URLが「https://」で始まり、鍵アイコンが表示されます。鍵マークをクリックすると、通信が保護されているかや証明書の詳細情報を確認できます。
さらに、ECサイトでは信頼性の高いSSLサーバー証明書の取得も重要です。SSLサーバー証明書は、ドメインの利用権と運営者の実在性を証明し、サイトの安全性を利用者に示す役割を果たします。
SSLサーバー証明書には「ドメイン認証(DV)」「企業実在認証(OV)」「EV認証」の大きく3つのレベルがあります。
- ドメイン認証(DV):ドメインの所有権のみを確認するもので、無料のLet’s Encryptで取得可能
- 企業実在認証(OV):ドメインの所有権に加え、企業の法的な実在性を確認
- EV認証:世界標準の認証ガイドラインに沿って組織情報を審査するもっとも信頼性が高い証明書
信頼度の高い証明書を導入することでユーザーに安心感を与えられ、ECサイト全体の信頼性向上にもつながります。
認証とアクセス制御
認証とアクセス制御も、ECサイトにおける重要なセキュリティ対策のひとつです。ユーザーがECサイトにログインする際には、IDとパスワードのみの認証に頼らず、二段階認証やワンタイムパスワード(OTP)を導入することで、不正ログインのリスクを大幅に減らせます。
また、ECサイトの管理画面やサーバーへのアクセスにはIPアドレス制限やVPN接続を活用し、社外からの不正なアクセスを防ぎましょう。
とくに複数の担当者が管理する場合には、アカウントごとに最小限の権限のみを付与する「最小権限の原則」が重要です。これにより、誤操作や内部不正による情報漏えいのリスクを抑えられます。
また、管理者アカウントの利用履歴をログとして残すことで、不審な操作を早期に検知でき、万が一の際にも原因を特定しやすくなります。
脆弱性対策とアップデート
ECサイトに利用するCMS・プラグイン・ECカートシステムなどのソフトウェアは、常に最新の状態に保つことが基本です。これらを更新せずに放置していると、既知の脆弱性を悪用され、サイト改ざんや情報漏えいのリスクが高まります。
パソコンやサーバーのOS・ミドルウェアも同様に最新の状態に保ちましょう。
脆弱性を悪用してソースコードを改ざんするSQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)など、代表的なサイバー攻撃の手口を理解し、セキュリティ対策を講じる必要があります。
また、定期的に脆弱性診断ツールを活用して、リスクを洗い出すことも効果的です。不要になったプラグイン、開発・更新が停止したソフトウェアは、攻撃者の入口になりやすいです。削除または代替手段への切り替えを検討しましょう。
ログ管理と監視
ECサイトへのアクセスログ・アプリケーションログ・ファイアウォールのログなどを記録し、異常な挙動を早期に検知できる監視体制を整えましょう。これらを継続的に確認することで、不審な挙動や不正アクセスの兆候を早期に発見できます。
さらにIDS(侵入検知システム)やIPS(侵入防御システム)を導入すれば、疑わしい通信の検知や遮断ができ、自動で攻撃を防御することが可能です。これにより、被害が拡大する前に対処できるセキュリティ体制が整います。
また、日常的にログを蓄積・分析することで攻撃の手口や傾向を可視化し、今後のECサイトのセキュリティ対策に活かせます。セキュリティインシデントは「起きてから対応」ではなく、「発見を早めて被害を最小化」する姿勢が重要です。
データ保護と暗号化
ECサイトの運営では、保存するすべてのデータに対して適切な保護や暗号化が不可欠です。
まず、データベース内のユーザーのパスワードは、必ずハッシュ化して保存します。ハッシュ化とは、データを不可逆的に変換し、第三者が元の値を復元できないようにする技術です。
これにより、万が一ECサイトのデータベースが流出しても、パスワードそのものが漏えいするリスクを大幅に軽減できます。
また、クレジットカード情報は自社で保持せず、決済代行会社に委託することが原則です。決済代行会社はPCI DSS(国際的なカード情報保護基準)に準拠しており、安全な決済環境を提供しています。
さらに、ユーザーの個人情報も暗号化して保存することで、不正アクセスが発生した際の被害を最小限に抑えられます。
ECサイトのセキュリティガイドラインについて
ECサイトのセキュリティガイドラインの例として、IPA(情報処理推進機構)の「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」と、経済産業省が定める「クレジットカード・セキュリティガイドライン」の要約を紹介します。
IPA(情報処理推進機構)のガイドラインを優しく要約

引用元:https://www.ipa.go.jp/security/guide/vuln/guideforecsite.html
ECサイトにおける個人情報やクレジットカード情報などの情報漏えいが増加しているため、IPA(情報処理推進機構)は2023年3月に「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」を公開しました。
ガイドラインでは、自社のECサイトがサイバー攻撃の対象にならないと考え、セキュリティ対策を行わないことの危険性と具体的な対策について述べています。サイバー攻撃は、セキュリティ対策が不十分なECサイトが対象になります。
しかし、自社構築ECサイトの多くはセキュリティ対策が未実施で、調査対象の企業の52%がサイバー被害に遭う可能性が高い状態という結果でした。実際にサイバー被害が発生したECサイト事業者の約97%が自社構築ECサイトであったとあります。
調査の結果、脆弱性に対するアップデートや各種設定の確認といった、セキュリティ対策の基本が行われていないことが大きな問題であることがわかりました。
被害に遭ったECサイト事業者は再開するにあたり、52%がECサイト構築プラットフォームの利用に移行しています。
ECサイトの経営者は、
- 組織全体の対応方針の設定、予算・人材の確保
- セキュリティ対策の実施状況の定期的な見直し
- 緊急時の対応体制の整備、外部委託先との連携強化
といったセキュリティ対策を行う必要があります。
また、ECサイトの運用時は、
- ソフトウェアの最新版の維持
- 脆弱性診断の定期的な実施
- 定期的なバックアップの取得とログの確認
- WAFの導入やサイバー保険への加入の推奨
といったセキュリティ対策が求められます。
ECサイトのセキュリティ対策には、定期的な確認と必要な対応の実施が大切です。企業としてセキュリティ対策の重要性を理解して方針を定め、構築時・運用時のチェックや、リスク軽減のためのWAFの導入といった具体的な対策を行いましょう。
参考:ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン | 情報セキュリティ | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
経済産業省のガイドラインを優しく要約

引用元:https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/guideforecsite.html
ECサイトでは、割賦販売法および業界基準である「クレジットカード・セキュリティガイドライン」にもとづき、クレジットカード情報の保護と不正利用対策が義務付けられています。
経済産業省の要件は、情報漏えいやチャージバック(不正利用による払い戻し)による経済的損失が甚大であるため、EC事業者に以下の対応を強く求めています。
- 情報保護対策:クレジットカード情報を自社で「非保持化」する、または国際標準であるPCI DSSに準拠する。
- 不正利用対策:EMV 3-Dセキュア(3Dセキュア2.0)の導入、および適切な不正ログイン対策の実施。
経済産業省の要件を満たすためには、IPAが推奨する一般的なセキュリティ対策に加え、決済関連の以下の具体的な対応が必要です。
ECサイトの経営者は、
- クレジットカード情報を自社のシステムで扱わない方針を定める
- 非保持化や3Dセキュア導入、脆弱性診断など、セキュリティ対策に必要な予算と人員を確保する
- EMV 3-Dセキュアと適切な不正ログイン対策の導入・実施する
といったセキュリティ対策を行う必要があります。
ECサイトの運用時は、
- カード情報の非保持化を徹底する
- 脆弱性診断の定期的な実施
- 管理画面に入れる人を制限し、ログインには複数の確認方法を使う
- 不正利用の発生状況に応じ、不正検知・監視システム等の適切な追加対策を実施する
といったセキュリティ対策が求められます。
経済産業省のガイドラインは、ECサイト運営が事業継続の条件として満たすべき、クレジットカード決済の安全性を担保するための根幹的な要求事項です。
参考:経済産業省「クレジットカード・セキュリティガイドライン」
クレジット取引セキュリティ対策協議会「EC 加盟店におけるセキュリティ対策導入ガイド2.0版」
※本記事に記載の内容は、2025年10月31日時点のものです。







