
EC企業と聞くと、Amazonや楽天市場を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、EC業界は多様化が進んでおり、消費者向けだけでなく、企業向けのECの市場規模も年々拡大しています。
EC企業について知ることで、
- EC業界の動向が把握できる
- EC事業展開に役立つ知見が得られる
- 自社に合ったEC事業が展開できる
といったメリットが得られます。
本記事では、企業におけるEC事業の目的や種類を解説し、EC業界の動向や国内外の代表的なEC企業11選まで詳しく紹介します。
目次
企業のEC事業について

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企業が展開するEC事業とは、インターネットを通じて商品やサービスを顧客に販売する事業です。ECとは「Electronic Commerce(電子商取引)」の略で、インターネットを介した商品やサービスの売買全般を指します。
企業のEC事業の身近な例は、Amazonや楽天市場といったオンラインショッピングモールです。
また、企業が独自にECサイトを立ち上げ、顧客と直接取引を行うケースも増えています。
企業のEC事業の領域は一般的な消費者向けだけに限らず、企業間取引、メーカー直販といった多様な形態が存在します。デジタル技術の進歩により、企業にとってEC事業は単なる販売チャネルの1つではなく、重要な事業戦略という位置づけに変化してきています。
企業がECを取り入れる目的
企業がECを取り入れる目的として、おもに以下の4つが挙げられます。
- 売上拡大・販路拡大: 実店舗だけでは届けられない地域や顧客層にアプローチ可能。海外向けの越境ECの事例も増えている。
- コスト削減・業務効率化: 店舗運営と比べて固定費が抑えられる。受注から発送までシステムによる一元管理で業務を効率化。
- 顧客データの活用: 購買履歴や閲覧履歴といった顧客データを蓄積。データをもとに商品開発やマーケティングなどを実施できる。
- 競争力強化・市場環境への対応: 消費者の購買行動がオンラインに移行している。ECの導入により市場の変化に対応。
企業にとってEC事業の大きな目的は、販売チャネルの拡大による売上の増加です。
それだけに留まらず、実店舗・アプリ・SNSといったさまざまな販売チャネルと連携し、一貫したマーケティングを実施するオムニチャネル戦略にも活用されています。
購買行動がオンラインへと変化していく市場における競争力を強化するためにも、企業にとってEC事業は重要な役割を担っているといえます。
EC事業の種類

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企業が展開するEC事業は、取引形態とプラットフォームによって分類が可能です。それぞれのEC事業の形態を理解することで、自社に最適なECモデルを検討できます。
取引形態による分類
消費者向け・企業向け・消費者間といった取引形態の違いによるEC事業の種類について、以下で解説します。
BtoC(Business to Consumer)
BtoCは、企業が消費者に商品やサービスを直接販売するもっとも一般的な形態です。アパレル・食品・家電・日用品など幅広い業界で利用されています。消費者の生活に最も身近なECの形態といえるでしょう。
BtoCのEC事業の例として、楽天やAmazonなどが挙げられます。多数の顧客にアプローチできることが魅力ですが、他社との差別化によって競争力を高める工夫が必要です。
BtoB(Business to Business)
BtoBとは、企業間で商品・資材・サービスを取引する形態です。オフィスの日用品の補充、工場の部品調達、飲食店の食材仕入れなどがBtoBのECの例として挙げられます。
このようなBtoBの取引はFAXや電話による受発注が主流でしたが、業務効率化や売上拡大などを目的にEC化が進んでいます。BtoBのEC事業の例として、アスクルやモノタロウが挙げられます。
CtoC(Consumer to Consumer)
CtoCとは、消費者同士が商品やサービスを売買する形態です。企業はプラットフォームを提供し、中古品やハンドメイド品などを個人間で取引します。CtoCのEC事業の例として、メルカリやヤフオクが挙げられます。
不用品の有効活用や安価な購入といったニーズから、CtoCのEC市場は拡大を続けています。出品のしやすさが魅力ですが、個人間取引によるトラブルが課題です。明確なルールの整備や、不正や不適切な行為を防ぐためのプラットフォームによる管理が求められています。
D2C(Direct to Consumer)
D2Cとは、メーカーやブランドが中間業者を介さずに消費者へ直接販売する形態です。オフライン店舗や外部プラットフォームを介さない自社ECサイトでの販売により、利益率を高めつつ顧客データを蓄積し、消費者との直接的な関係を築けます。
顧客データを分析し、商品改善・マーケティング・リピーター施策などに活用できる点がD2CのEC事業の特徴です。D2Cの具体例としては、食品分野のグリーンブラザーズやユニクロ公式オンラインストアが知られています。さらに、BASEやイージーマイショップなどのカートASPを使えば、規模の大小を問わずブランドが独自にEC展開を行うことも可能です。
プラットフォームの形態による分類
自社ECサイトとECモールの2つのプラットフォームの違いによるEC事業の種類について、以下で解説します。
自社ECサイト
自社ECサイトとは、企業が独自に構築したECサイトの運営を行う形態です。自社ECサイトは、販売によって得た顧客データを自社で管理できることが特徴です。データ分析を通じてパーソナライズ施策やブランド強化につなげやすいことがメリットといえるでしょう。
一方で、自社ECサイトは集客の難易度が高いというデメリットがあります。SEO・SNS運用・広告出稿など、集客に対する対策が不可欠です。自社ECサイトの例として、Apple公式オンラインストアが挙げられます。
ECモール(マーケットプレイス)
ECモールは、Amazon・楽天市場・Yahoo!ショッピングなどの大型プラットフォームに出店するEC事業の形態です。ECモール自体が集客力を持っているため、短期間で売上を伸ばしやすいことが特徴です。
ただし、出店する競合企業も多いため、自社ブランドの差別化によって売上につなげるアプローチが求められます。また、ECモールに支払う手数料や広告費が高額になりやすい点に注意が必要です。
そのため、自社ECとECモールの併用によって、中長期的な売上拡大とブランディングの両立を図る企業が増えています。
EC業界について

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EC業界の市場規模・課題・トレンドといった、企業ECを取り巻く環境について解説します。EC業界について理解すると、企業におけるEC事業の展望を立てやすくなるでしょう。
市場規模・成長率

参考:令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果(METI/経済産業省)
EC業界の市場規模は、2021年から着実に拡大を続けています。経済産業省の調査結果によると、2024年の日本国内のBtoC ECの市場規模は26.1兆円、前年比5.1%の成長率です。
また、2024年の日本国内のBtoB ECの市場規模は514.4兆円とBtoCよりも大きく、前年比で10.6%の成長率を誇ります。BtoB ECの市場拡大が加速している理由として、業務効率化や政府によるDX推進が挙げられます。
国内のEC業界は消費者向け・企業向けの両面で成長を続けており、今後もデジタル技術の発展、ECの事業戦略への活用、物流の発展とともに市場拡大が続くでしょう。
※経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」のデータを基に執筆。
EC業界の課題
上述のとおり、EC業界は成長を続けている一方で、以下のさまざまな課題があります。
- 物流2024年問題: ドライバー不足や人件費の高騰により、ECに欠かせない配送網の維持が困難。
- セキュリティ・個人情報保護: ECサイトは不正アクセスによる情報漏えいのリスクがある。個人情報保護を徹底した顧客情報の管理が必須。
- 他企業との差別化の難しさ: EC市場の参入のハードルが下がり、価格競争が激化。他社との差別化のためのブランディングが不可欠。
- 中小企業の参入障壁:システム導入や集客のコスト負担が参入障壁になっている。
EC事業への参入を検討している企業にとって、どのように差別化を図り、ECを活用するかという戦略の策定が鍵となるでしょう。
EC業界のトレンド・動向
2025年のEC業界では、次のような新しいトレンドが注目されています。
- OMO(Online Merges with Offline): オンラインとオフラインの融合。実店舗とECをシームレスにつなぎ、顧客体験を高める取り組み。
- ライブコマース: 動画配信で商品やサービスを紹介し、視聴者がリアルタイムで購入できる仕組み。
- パーソナライズマーケティング: AIやデータ解析により、顧客一人ひとりに最適な商品提案や施策を展開。顧客満足度とリピート率の向上につながる。
- サステナビリティ対応: 簡易包装やカーボンニュートラル配送など、環境負荷を減らす取り組みを重視する取り組み。企業の持続可能性に対する取り組みが評価される時代性に対応。
- 越境ECの拡大: 国内だけでなく、海外の消費者もターゲットにしたECの拡大。
ECサイトは単なるインターネットを通じた取引ではなく、顧客体験を高める取り組みに変化してきています。そのためには、AIやSNSなどのデジタル技術の活用が不可欠です。
成功事例:代表的なEC企業
以下で、日本国内と海外のEC企業の成功事例について解説します。特徴・成功理由・ビジネスモデル・売上といった詳細について理解し、自社のEC事業の参考にしてください。
日本国内
ZOZOTOWN

引用元:https://zozo.jp/
ZOZOTOWNは、ファッションに特化したECモールを展開する企業です。多数のアパレルブランドが出店しており、消費者に対して豊富な選択肢を提供することで、高い集客力を誇ります。
ブランドと消費者の双方にとって、魅力的なUXを提供している点が成功した大きな要因です。ECサイト・コーディネート提案アプリ・ライブコマースを組み合わせた戦略により、成長を続けています。
株式会社ZOZOの2025年3月期決算における売上高は21億3,131万円、営業利益は約648億円で、売上・利益ともに過去最高を更新しました。
ユニクロ

引用元:https://www.uniqlo.com/jp/ja/
ユニクロはSPA(製造小売業)モデルを採用し、企画・生産・物流・販売を自社でコントロールして成功した企業です。ベーシックなデザインとコストパフォーマンスの高さにより、幅広い層の消費者に受け入れられていることが特徴です。
それに加え、サプライチェーンの効率性の高さ、オムニチャネル戦略の強化、デジタル技術の活用など、新たな技術を活用した取り組みの継続が成功の要因といえるでしょう。
株式会社ファーストリテイリングの2024年8月期決算の売上収益は3兆1,038億円、営業利益は5,009億円です。国内ユニクロ事業の売上収益は9,322億円で、過去最高の業績を記録しました。
参考:ファーストリテイリング 2024年8月期 決算サマリー | FAST RETAILING CO., LTD.
楽天市場

引用元:https://www.rakuten.co.jp/
楽天市場は、日本を代表するECモール型プラットフォームで、豊富な品揃えを誇ります。集客力と知名度の高さから、多くの小売業者やブランドが出店しています。
楽天市場はポイント施策の効果的な実施やエコシステム戦略によって、強力なユーザーの囲い込みを図っていることが特徴です。他の楽天グループのサービスとのシナジーを意識した戦略が成功した要因といえるでしょう。
楽天グループ株式会社の2024年の国内EC流通総額は、6,106十億円(約6.1兆円)です。
モノタロウ

モノタロウは、部品・工具・消耗品など多数の商品を扱う代表的なBtoB ECサイトです。製造業・工場・研究機関・サービス業者などをターゲットに、EC事業を展開しています。
リピート性が高い豊富な商品構成に加え、迅速な納入体制の整備も顧客から支持される要因の1つです。また、使いやすい検索・注文システムや明瞭な価格提示によるわかりやすさも成功した要因といえるでしょう。
株式会社MonotaROの2024年12月決算の売上高は2,881億1,900万円、営業利益は370億6,600万円です。
参考:直近の業績 | 業績・財務情報 | IR情報 | 株式会社MonotaRO
アスクル

引用元:https://www.askul.co.jp/?nextUri=/&sc_e_complete=1
アスクルはおもにBtoBのEC事業を展開し、オフィス用品・生活用品・消耗品などを販売しています。LOHACO by ASKULのように一般消費者向けECも手がけており、BtoBとBtoCの双方のチャネルを持つことが特徴です。
その豊富な顧客基盤を活かしたデータ分析により、精度の高いマーケティングを実施していることがアスクルの成功要因の1つです。機能・価格・デザインにこだわったオリジナル商品の開発にも積極的です。また、自社物流ネットワークによる、スピーディーな配送も顧客満足度を高めています。
アスクル株式会社の2025年5月期決算の売上高は4,811億円です。
参考:数字で見るアスクル | 企業情報 | アスクル株式会社 企業サイト
ベルメゾン

引用元:https://www.bellemaison.jp/
ベルメゾンは、ファッションを中心に、家具・インテリア・コスメ・生活雑貨などを扱う女性ユーザーをターゲットにしたECサイトです。売上低迷が続いていましたが、2025年現在では大きく巻き返しています。
売上を回復させた要因の1つは、自社ECサイトと外部ECモールを使い分ける戦略です。バランスを見直すことで新規顧客の獲得に成功し、ECモールの売上は着実に伸びています。
また、紙カタログからアプリやECサイトへ移行する戦略の転換も成果を挙げています。これにより、顧客の購買行動はEC全体の主流といえるスマホ中心へと変わりました。
株式会社千趣会の2024年12月期決算における連結売上高は、456億円です。
海外
Amazon(米国)

AmazonはECサイトの草分けであり、クラウド・広告・物流など多角的に事業を展開している世界的企業です。幅広いジャンルの商品を網羅しており、日本でもトップクラスの売上高を誇ります。
商品をメインとした出品方式であることが、Amazonの大きな特徴です。商品をメインとしたシンプルで使いやすい構造と自社物流網による迅速な配送により、顧客の利便性を追求したサービスを提供しています。
2024年の日本事業の売上高は274億100万ドルで、公開時の1ドル=151円換算で約4兆1375億円です。
参考:Amazon’s 2024 annual report
Alibaba(中国)

引用元:https://japanese.alibaba.com/
Alibabaは中国国内のECを始め、越境EC・物流・クラウドコンピューティング・広告などの幅広い事業を展開する企業です。AIやクラウドへの投資を強めており、EC以外の成長軸を複数持っている多角的な事業ポートフォリオが特徴です。
AlibabaはBtoB・BtoC・CtoCという異なる取引形態のECサイトを運営し、中国で大きなシェアを獲得しています。
BtoBの取引では品揃えが豊富で、企業や卸売業者と直接価格交渉が可能です。そのため、中国からの仕入先として、日本でも多く利用されています。
Alibaba Groupの2024年度の売上は、1,303億5,000万ドルです。
参考:アリババグループ、2025年3月期および2025年度決算を発表 – アリババグループ
Shopee(シンガポール発)

Shopeeは、Sea LimitedのEC部門で東南アジアや台湾を中心に展開しています。クーポン・セール・キャンペーンを効果的に活用した、モバイルファースト戦略により顧客の支持を獲得しています。
Sea LimitedのEC部門の2024年の流通取引総額は、1005億ドルです。
参考:December Quarter and Full Year 2024 Results
eBay(米国)

eBayは、消費者と販売者をマッチングさせるマーケットプレイス型ECの老舗です。個人・中小企業・ブランドまで、幅広い出品者が利用しています。とくに中古品・再販品・限定品の取り扱いに強みを持っています。
eBayの2024年の流通取引総額は747億ドルです。
参考:eBay Inc. – eBay Inc.、2024年第4四半期および通期の業績を発表
Etsy(エッツィー)(米国)

Etsyは、ハンドメイド品、ヴィンテージ品、クリエイターの商品を中心に取り扱うマーケットプレイス型ECです。商品独自性が高く、ほかのECとは異なる品揃えのユニークさが強みです。
Etsyの2024年の売上は、28億ドルです。
参考:Etsy, Inc. – Financials – Annual Reports & Proxy