
「取引先からの発注がアナログ対応に追われ、手間と時間ばかりかかる」「人手不足で営業活動の効率化が急務」 そんな課題を抱える企業が今、続々と導入しているのがBtoB ECです。 近年、BtoB EC市場規模は年々拡大を続けており、単なる“発注のオンライン化”にとどまらず、
- 営業効率の大幅な改善
- 新規顧客獲得のチャネル拡大
- データ活用による売上のさらなる向上
といった効果をもたらし、競争力を上げる手法として定着しつつあります。
本記事では、BtoB ECの概要、メリット・デメリット、成功事例、構築の流れまでわかりやすく解説します。
目次
BtoB ECとはなにか?

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BtoB ECとは、企業同士がオンラインストアを通じて商品やサービスを取り引きする仕組みです。BtoBとは「Business to Business」の略で、企業同士の取り引きやビジネスを意味します。ECは「Electronic Commerce」の略で、インターネット上での商品の売買を意味します。
また、BtoB ECにはEDIの利用も含まれる場合があります。EDIとは「Electronic Data Interchange」の略で、企業間での取引に必要な発注書・納品書・請求書などのデータを電子的にやりとりする仕組みのことです。
EDIを使った発注は依然として多く、企業によってはBtoB ECとEDIを連携させている場合も多く見られます。
BtoB ECサイトの例として、以下が挙げられます。
- 小売店がメーカーや卸売業者に商品をECサイトで発注する
- 飲食店が食品や飲料をECサイトから仕入れる
- 工場が部品や原材料をECサイトから発注する
- 建材メーカーが工務店や建設会社からECサイトで注文を受け付ける
このように、今までは電話やFAXなどで受け付けていた企業間の取り引きを、オンラインで完結できるのがBtoB ECサイトです。
BtoB ECの特徴
BtoB ECは、消費者向けのBtoC ECと比較すると以下の特徴があります。
- 取引金額が大きい
- 取り引きが継続的、定期的
- 注文数や商品数が多い
- 価格や取引条件が顧客によって異なる
- 請求書払い・掛け払いが多い
- 会員制・非公開型サイトが多い
まず、前提として取り引きが企業間で行われます。そのため、ビジネスを行うために必要となる取り引きとなることが一般的です。
企業が仕入れを行って販売する場合には、多くの商品を定期的に購入します。そのため、購入時の支払いではなく、月単位での請求書払いや掛け払いとなる場合も多く見られます。
また、消費者や競合企業に卸売の価格や在庫数の開示を避けたい、取り引きの安全性を確保したい、掛け払いなど企業間特有の支払いへの対応といった理由から、会員制や非公開型サイトにしている場合が多いこともBtoB ECの特徴です。
BtoB ECの種類

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BtoB ECの種類は、クローズド型・オープン型・モール型の3つに大きく分けられます。以下で、それぞれのBtoB ECの種類の違いについて解説します。
① クローズド型・セミクローズド型BtoB EC(会員制・既存顧客向け)
クローズド型・セミクローズド型BtoB ECは、会員登録を行った企業のみが利用可能です。
クローズド型は完全会員制や招待制で、登録および利用にはECサイトを提供する企業の承認が必要です。セミクローズド型は、会員制ですが一部の商品情報や価格などは一般に公開されていて新規顧客も受け入れています。
企業は利用時にログインが必要となり、専用の画面が表示されます。それにより、取引先ごとに価格や支払い方法といった細かな設定が可能です。そのため、既存顧客とのこれまでの取引方法を維持しながら、受発注や請求など作業の効率化を実現できます。
クローズド型・セミクローズド型BtoB ECサイトの例として、メーカーが代理店や卸先に向けて構築する自社ECサイトが挙げられます。
② オープン型(スモールB)BtoB EC(新規顧客開拓型)
オープン型BtoB ECはサイト上で会員登録ができるため、どのような企業でも購入できます。新規顧客を含めた幅広い企業を対象としたECサイトです。
価格やサービス内容は、どのような顧客でも基本的に同じです。小中規模の企業の取引の中心となり、クレジットカードや銀行振込など幅広い決済方法に対応しています。
オープン型BtoB ECサイトの例として、以下が挙げられます。
③ モール型BtoB EC(BtoBマーケットプレイス)
モール型BtoB ECは、1つのプラットフォームに複数企業が商品を出品しています。買い手の企業は、複数の卸売業者の商品の比較や購入を一括で行えます。売り手の企業は、自社でECサイトの構築が不要で集客や販売が行えることが利用するメリットといえるでしょう。
モール型BtoB ECサイトの例として、以下が挙げられます。
BtoB ECの市場規模

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経済産業省による「令和5年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」によると、2023年度のBtoB ECの市場規模は4,652,372億円(約465兆円)とあります。2021年度は3,727,073億円(約372兆円、)2022年度は4,202,354億円(約420兆円)とあり、BtoB市場規模が拡大していることが伺えます。
各業界の2023年度のEC市場規模は以下のとおりです。
大分類 | 中分類 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
EC市場規模 (億円) | EC化率 | EC市場規模 (億円) | EC化率 | EC市場規模 (億円) | EC化率 対前年比 | ||
建設 | 建設・不動産業 | 208,558 | 14.30% | 234,598 | 15.20% | 271,277 | 15.60% |
製造 | 食品 | 271,027 | 67.20% | 296,443 | 70.70% | 355,307 | 19.90% |
繊維・日用品・化学 | 376,509 | 47.90% | 447,337 | 49.90% | 451,456 | 0.90% | |
鉄・非鉄金属 | 252,529 | 42.70% | 286,620 | 44.10% | 309,151 | 7.90% | |
産業関連機器・精密機器 | 181,284 | 40.70% | 207,734 | 42.00% | 221,639 | 6.70% | |
電気・情報関連機器 | 391,121 | 64.20% | 450,282 | 66.30% | 451,318 | 0.20% | |
輸送用機械 | 542,170 | 74.30% | 588,775 | 76.70% | 735,495 | 24.90% | |
情報通信 | 情報通信 | 166,975 | 21.80% | 182,616 | 22.30% | 223,984 | 22.70% |
運輸 | 運輸 | 110,884 | 19.20% | 133,433 | 20.90% | 139,465 | 4.50% |
卸売 | 卸売 | 1,006,059 | 32.30% | 1,128,794 | 34.90% | 1,212,499 | 7.40% |
金融 | 金融 | 141,237 | 23.20% | 160,314 | 23.80% | 184,548 | 15.10% |
サービス | 広告・物品賃貸 | 43,568 | 15.50% | 44,596 | 15.90% | 47,957 | 7.50% |
その他 | 小売 | 29,875 | 34,041 | 40,579 | 19.20% | ||
その他サービス業 | 5,277 | 6,771 | 7,697 | 13.70% | |||
合計 | 3,727,073 | 4,202,354 | 4,652,372 | 10.70% | |||
合計(その他を除く) | 3,691,922 | 35.60% | 4,161,542 | 37.50% | 4,604,097 | 10.60% |
引用元: 令和5年度 電子商取引に関する市場調査 報告書 – 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課
建設
建設業のBtoB ECの市場規模は約27.13兆円、前年比で15.6%増加しています。ただし、EC化率は16.9%とあり、進んでいるものの他の業界と比較すると低水準です。
製造
製造業のBtoB ECの市場規模は合計で約252.44兆円です。特に成長が著しいのは、食品業界です。
食品業界の市場規模は約35.53兆円、前年比で19.9%増加しています。消費者の外食需要の高まりによって、企業間の食品の取引が増加したことが成長の要因として考えられます。
情報通信
情報通信業のBtoB ECの市場規模は約22.4兆円、前年比で22.7%増加しています。一方で、EC化率は23.4%と低く、市場規模の拡大とは比例していません。ITに関わる業界ですが、ECによる取引は活発に行われていないことが伺えます。
運輸
運輸業のBtoB ECの市場規模は約13.95兆円、前年比で4.5%増加しています。2023年の市場規模の拡大は緩やかです。しかし、人材不足解消のためにIT導入による自動化や効率化が進むことで、EC化が急速に進むことも考えられるでしょう。
卸売
卸売業のBtoB ECの市場規模は約121.25兆円、前年比で7.4%増加しています。卸売業のEC化が進んでいる理由として、EDIへの対応が進んでいることが考えられます。クラウド型EDIやWeb-EDIも増えており、BtoB ECプラットフォームと連携している場合も多いです。
金融
金融業のBtoB ECの市場規模は約18.45兆円、前年比で15.1%増加しています。業界としてセキュリティ対策、既存システムとの連携、顧客のITリテラシーなど、考慮すべき課題も多いですが、着実に成長しています。
今後の見通し・予測
今後もBtoB ECの市場規模は、成長を続けることが予想されます。その理由として、業務の効率化・自動化によるコスト削減を目的としたデジタル技術の導入が進んでいることがまず挙げられます。
そして、政府が業務のデジタル化を後押しする「デジタルトランスフォメーション(DX)」の政策を推し進めていることも重要な要因です。IT導入補助金をはじめとした政策が展開され、BtoB ECの導入のハードルは低くなっています。
今までは消費者向けのECサイトが主流でしたが、今後は企業間の取引にもECサイトはさらに活用されていくでしょう。
BtoB ECのメリット・デメリット

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BtoB ECのメリットとして、業務効率化の実現や顧客満足度の向上が挙げられます。一方で、初期費用がかかり、顧客に定着しないリスクがあるといったデメリットもあります。
メリット・デメリットをしっかりと理解することが、BtoB ECを成功させるポイントといえるでしょう。
メリット
メリット | 内容 | 補足 |
---|---|---|
業務効率化の実現 | FAXや電話の受発注が不要 人手の削減、入力ミス防止、業務スピードアップ | 特に受注処理時間・コストが大幅削減 |
顧客満足度向上 | 24時間Webから注文可能 発注履歴や納期確認も行える | 営業時間外でも注文・再注文ができる |
新規顧客の獲得 | オープン型であれば、全国の法人が対象になる | Web営業と連携しやすい(広告・SEO) |
価格や条件の個別対応 | 顧客ごとに商品・単価・納期・在庫など細かく設定可能 | 従来の商習慣をそのまま再現可能 |
売上拡大・機会損失の防止 | 休業日や営業時間外でも自動で受注可能 | 売上機会の損失を防止 |
データ活用が可能 | 取引履歴・売上分析・在庫データの取得が可能 | MA・CRMとの連携でマーケティングに活用 |
BtoB ECを行う大きなメリットは、業務効率化によってリソースが削減できることです。FAXや電話での受発注が不要となり、入力ミスによるヒューマンエラーも防げます。
いつでも好きなタイミングで発注でき、処理状況も把握できるので顧客満足度の向上も期待できます。
また、ECサイトの利用によって得られたデータから売上分析や在庫分析を行うことで、今後の事業戦略の策定に活用できることもメリットと言えるでしょう。
デメリット
デメリット | 内容 | 補足 |
---|---|---|
初期導入コストが必要 | システム構築・商品データ整備・社内教育が必要 | カスタマイズを行うと開発費が増大 |
顧客のITリテラシー格差 | 取引先によっては使いにくいケースもある | 電話・FAX併用が必要になることも |
価格の透明性による競争圧力 | オープン型だと競合に価格が見えるリスク | クローズ型で対策可能だが、集客力は弱くなる |
導入しても使われないリスク | 新しい方法に不便さを感じ、顧客が結局従来の注文手段に戻る場合もある | 導入前と導入後の顧客フォローが重要 |
カスタマイズしすぎると保守負担が増える | 既存のフローの再現にこだわり、設定が複雑になると、運用コストが増加 | 標準化と柔軟性のバランスが必要 |
BtoB ECを行うデメリットとして、まず初期導入コストがかかることが挙げられます。既存顧客のニーズや社内フローへの対応を優先し、カスタマイズが増えればさらにコストは増大するので注意が必要です。
また、取引先のITリテラシーによっては「使いづらい、今までの方法がよかった」と感じる場合もあります。それによって顧客が離れ、従来の受発注手段に戻さなければならないリスクもあります。
BtoB ECに移行する際は、顧客へのフォローをしっかりと行いましょう。また、営業にもBtob ECの利便性を理解してもらって顧客をケアできるように、しっかりと社内教育を行う必要があります。
BtoB ECの成功事例サイト

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BtoB ECの成功事例についてご紹介します。これから、BtoB ECに参入したいと考えているご担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
成功事例1:MISUMI(ミスミ)

MISUMIは、製造業向けの部品を専門に扱っているクローズド型BtoB ECサイトです。
MISUMIがBtoB ECで成功した理由として、豊富な商品ラインナップとECサイトの使いやすさが挙げられます。カテゴリー・メーカー・キーワード・型番などで検索でき、多くの商品の中から欲しいものがすぐに見つけられます。
公式サイト: MISUMI(ミスミ) | 総合Webカタログ
成功事例2:モノタロウ

モノタロウは、1点から商品を購入できる製造業・工事業・自動車整備業などの現場を支えるオープン型BtoB ECサイトです。
非会員でも価格を閲覧できるため、幅広い業種の中小企業の新規顧客を獲得して成功しました。豊富な商品ラインナップとスピーディーな配送を強みとしています。
公式サイト: モノタロウ 現場を支えるネットストア
成功事例3:NETSEA(ネッシー)

NETSEAは、卸売業者・小売店をつなぐモール型BtoB ECサイトです。アパレル・美容・雑貨・食品・家具まで、幅広い商品を扱っています。
商品到着後に支払いを行う後払いが利用でき、小ロットでの仕入れも可能です。NETSEAが成功した理由として、個人事業主や小規模な企業にニーズに応えることでスモールBtoB市場を取り込んだことが挙げられます。
公式サイト:卸売・問屋・仕入れなら国内最大級の商品掲載数【NETSEA】
BtoB EC事業を始めるために必要な事

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BtoB EC事業の立ち上げには「事業戦略の策定」「システム導入」「社内業務体制の構築」の3つが重要です。
事業戦略・設計
事業戦略の策定を行う際は、まずBtoB ECを始める目的とターゲットを決めます。
BtoB ECを始める目的の例としては、新規顧客開拓、既存顧客との関係強化、業務効率化、売上拡大などが考えられます。企業の課題に応じた目的の設定を行いましょう。
その目的を実現するため、対象となるターゲットを絞ることで効果的にBtoB EC事業が展開できます。ターゲットは、業種・規模・地域などの要因から具体的に設定することが大切です。
目的とターゲットの設定後は、取扱商品と販売条件を整理します。商品ラインナップ・価格設定・最低注文数・配送条件などを整理することで、その後のシステム導入や社内業務体制の整備もスムーズに行えます。
また、決済・与信ポリシーについても明確にしておきましょう。取引先の信用調査や与信管理に関するルールを決めます。これは、掛け払いを導入する場合に特に重要です。
そして、目的に対する進捗の確認のため、KGI・KPIを設定します。
KGIは「Key Goal Indicator」の略で、最終目標を意味します。KPIは「Key Performance Indicator」の略で、重要業績評価指標と訳されます。簡単に言うと、KGIに対する進捗状況を測るための指標です。
目標に合わせて売上高・新規顧客数・リピート率・受注件数などを評価指標に定めます。KPIに対する達成率を振り返り、BtoB EC事業の改善サイクルを回していくことが成功させるポイントです。
システム準備・導入
BtoB EC事業の戦略策定後は、選定・基幹システム連携・商品データ整備といったシステムの導入を進めます。
まず、目的に合わせてECシステムを選定します。想定される事業規模やクローズド型・オープン型といったECサイトの種類を加味して、システムは選びましょう。
また、システムは選ぶ際は、既存の基幹システムとスムーズに連携できることも大切です。既存の基幹システムと連携することで、在庫管理・受発注・会計管理といった業務の自動化や効率化が実現できます。
システムの導入後は、商品データや帳票機能の整備を進めます。商品名・型番・仕様・画像・価格・在庫数といった情報を正確に入力して整備しましょう。また、顧客が見積書・納品書・請求書をダウンロードできる環境を整えると、ペーパーレス化による効率化も実現できます。
システム全体の設定が完了したら、必要に応じて顧客ごとの設定を行います。クローズド型の場合には、閲覧できる商品の制限や価格表示の変更などを契約条件や取引関係に応じて設定することが可能です。
社内体制・業務構築
BtoB ECシステムの導入後は、円滑な運用が行えるように社内業務体制の構築を行います。
まず、受注・出荷・請求・カスタマーサポートなどの既存の業務をEC利用を前提に再設計します。その際に、作業の削減や自動化の検討や新たに発生する業務の洗い出しも行いましょう。
そして、営業とカスタマーサポートの役割についても再定義が必要です。BtoB ECから注文を受け付けて処理し、営業は顧客の新規開拓やフォローアップに注力するといった役割分担を明確にしましょう。