
近年、ECサイトと実店舗の垣根は急速に薄れつつあります。スマートフォンで商品を調べてから店舗で確かめたり、逆に店頭で見た商品を後でネットで注文したりと、ECサイトと実店舗を行き来する人が増えてきました。
ECサイトと実店舗、どちらにも利点があるため、これからは両者の違いを理解したうえで、どう連携させるかが課題になります。
本記事では、ECサイトと実店舗の特徴を比較しながら、両方を活かす方法とそのメリットをわかりやすく解説します。
目次
ECサイトと実店舗の違いを比較

まずは、ECサイトと実店舗の特徴を整理してみましょう。
どちらも「商品を販売する」という目的は同じですが、営業の仕組みや顧客との接点、コスト構造などは大きく異なります。
| 項目 | ECサイト | 実店舗 |
|---|---|---|
| 営業形態 | インターネット上で運営、24時間365日注文可能。店舗不要で全国・海外に対応。 | 物理的な店舗で営業。営業時間・立地に依存。 |
| 顧客体験 | 商品を直接手に取れないため、写真・動画・レビューなどが重要。自宅で手軽に購入できる利便性。 | 実際に試せる安心感があり、接客による信頼関係が生まれる。偶然の出会いや衝動買いも起こりやすい。 |
| 運営コスト | 家賃・人件費は不要だが、サイト構築・広告・物流コストが発生。システム運用やデジタルマーケティングが不可欠。 | 家賃・光熱費・人件費が大きな負担。立地によって売上が左右される。スペースに限りがあるため在庫数に制約がある。 |
| 集客方法 | SEO・SNS広告・メールマーケティング・レビューや口コミなどのオンライン施策が集客の要。 | 立地・看板・チラシ・地域イベントなどオフライン施策が中心。接客と地域密着がリピーター獲得の鍵。 |
| 拡張性 | 仕組みが整えば全国・海外に拡大しやすい。システムで注文処理を自動化できる。 | 拡大には新規出店が必要で、初期投資が大きい。商圏が地域に限定されやすい。 |
ECサイトは利便性と拡張性に優れ、実店舗は体験価値と信頼関係の構築に強みがある点が特徴です。それぞれ具体的に見ていきましょう。
営業形態の違い
ECサイト
オンライン上に店舗を構え、PCやスマートフォンを通じていつでも注文を受け付けることができます。地理的な制約がなく、全国はもちろん海外の顧客にも販売可能です。
データを活用して在庫や販売を効率化しやすい点も特徴で、少人数でも大規模な運営がしやすいモデルといえます。
実店舗
顧客が実際の店舗に足を運び、実際に商品を手に取って購入する販売形態です。
営業時間や立地条件が売上を左右しやすい一方で、店員の接客や空間づくりを通じたブランド体験を提供できます。地域との関係性や“場”の魅力が、そのまま集客力やリピート率につながるのが実店舗の強みです。
顧客体験の違い
ECサイト
ECでの買い物は、手軽さと情報量の多さが魅力です。写真や動画、レビューを通じて他社製品と比較しやすく、時間や場所を選ばずに購入できます。自宅や移動中にスマートフォンから気軽に注文できる点は、忙しい現代人にとって大きな利点といえるでしょう。
一方、実物を手に取れない分、サイト上の情報設計や信頼性が体験の質を左右します。
実店舗
実店舗では、五感を通して商品を確かめられる安心感があります。素材の質感やサイズ感、色味をその場で確認できるほか、スタッフの接客によって売上が向上したり、ブランドへの信頼感が生まれます。
ウインドウショッピング中に偶然見つけた商品を購入するような楽しみも、リアル店舗ならではの魅力です。
集客方法の違い
ECサイト
ネット上での集客は、検索やSNS、メールなど、オンライン上の情報発信が中心です。
検索結果で上位に表示される工夫をしたり、SNSで商品の魅力を紹介したりと、地道な発信と信頼の積み重ねが購買につながります。
また、口コミやレビューの影響力が大きく、購入者の感想が新たな顧客を呼び込むうえで大きな影響力を持っています。
実店舗
実店舗では、人と場所が集客の中心になります。
駅前や商業施設など、人の流れがある立地がそのまま集客力となり、看板やチラシ、地域の催しなど、顔の見える宣伝が効果を発揮します。
さらに、スタッフとの会話や接客、店の雰囲気といった体験が、ブランドへの愛着や信頼感につながります。
運営コストの違い
ECサイト
オンライン販売では、店舗を構える必要がないため家賃や人件費を抑えられます。
一方で、サイト構築や保守、広告運用、物流費といったデジタル特有のコストが発生しますし、在庫管理システムの導入や配送業者との契約、アクセス解析などの運営体制づくりも必要です。
物理的な制約が少ない分、継続的なシステム投資とマーケティングの工夫が求められるのが特徴です。
実店舗
実店舗は、家賃・光熱費・人件費といった固定費の負担が大きくなります。これらの固定費も売上も立地によって左右されやすく、商圏の変化や人の流れに影響を受けやすい点が特徴です。
また、在庫は店舗の広さに制約されるため、仕入れ量や陳列方法を工夫して回転率を高める必要があります。
拡張性とスケールの違い
ECサイト
ECは、一度仕組みを整えてしまえば、注文数が増えても比較的柔軟に対応できます。システムや物流体制を整えれば、全国どころか海外への販売にも広げやすく、少ないリソースでスケールできるのが強みです。
もちろん在庫や配送拠点の制約はありますが、販売チャネルを拡張しやすい点では非常に効率的なモデルといえます。
実店舗
実店舗の拡大には、新たな出店という物理的な投資が欠かせません。立地の確保や内装、スタッフの採用など、初期費用も運営コストも大きくなります。商圏は地域に限定されるため、一定の集客力を維持するには綿密な立地戦略が必要です。
ただし、店舗が増えるほどブランドの存在感が高まり、地域とのつながりも深まるという、リアルならではの価値もあります。
ECサイトと実店舗の連携

ECサイトと実店舗にはそれぞれ異なる強みがあります。
しかし、現代の購買行動はどちらか一方で完結することは少なくなってきました。消費者はオンラインで情報を得て店舗で商品を確かめたり、店舗で体験した商品を後からネットで購入したりと、複数のチャネルを行き来しています。
このような行動変化に対応するためには、ECサイトと実店舗の連携による統合的な顧客体験を設計することが重要です。
ECサイトと実店舗の連携はなぜ重要なのか?
企業がECと店舗を連携させる目的は、単に販売チャネルを増やすことではありません。
オンラインとオフラインをつなぐことで顧客理解を深め、売上と満足度を同時に高めることができます。
売上最大化
ECサイトは新規顧客を獲得しやすく、実店舗では商品体験や接客によってリピート購入へつなげやすい特徴があります。この2つを組み合わせることで、オンラインの集客から店舗での信頼獲得につなぎ、再購入を促す流れが生まれます。
来店時のついで買い(クロスセル)などにもつながりやすく、LTV(顧客生涯価値)を引き上げられます。
消費者行動の多様化
現代の購買行動は一方向ではなく、複数のチャネルを行き来する形に変化しています。たとえば、オンラインで情報を集め、店舗で実物を確かめてから購入する人もいれば、店舗で体験した商品を後日ECでリピート購入する人もいます。
”チャネル横断型”の購買行動が一般的になった消費者に対応するためには、ECと店舗のどちらでも一貫した情報・価格・サービスを提供することが求められます。
データ活用の重要性
ECではアクセス履歴や購買履歴といった顧客データを収集しやすい一方、実店舗ではPOSデータや来店情報が取りこぼされがちです。
両者のデータをうまく統合できれば、顧客が「どのチャネルで、どの商品を、どのタイミングで購入しているか」を把握でき、より精度の高いマーケティングが可能になります。
横断データの分析によって、顧客ごとに最適なクーポン配布やおすすめ商品の提示など、パーソナライズ施策の精度を高めることができ、顧客満足度や再購入率の向上につながります。
コロナ禍による購買体験の変化
新型コロナウイルスの影響により、外出を控える傾向が強まったことで、EC利用が急速に拡大しました。同時に、実際に見てから買いたい・スタッフに相談したいといった実店舗の価値も再確認され、両者を行き来するような購買が一般化しました。
この経験を経て、消費者の多くが「オンラインでもオフラインでも購入できる状態」を求めるように。企業にとっても、どちらか一方に依存せず、両者を連携した体制づくりが必須の課題になっています。
ECサイト実店舗の主な連携方法
ECと店舗の連携によって、欠品機会の削減や来店の導線づくり、在庫の有効活用が進みます。ここでは代表的な連携方法を取り上げ、仕組みと利点、実例を簡潔に整理します。
| 連携方法 | 概要 |
|---|---|
| 店舗・EC在庫連携 | 店舗とECの在庫を統合し、販売機会の損失を防ぐ。 |
| 店舗受け取り | ECで注文した商品を店舗で受け取れるようにし、送料削減と来店を促進する。 |
| 店舗からEC配送 | 店舗を小さな物流拠点とし、配送を高速化・効率化する。 |
| 会員・ポイント統合 | 顧客情報を一元化し、チャネル横断での顧客理解を深める。 |
| スタッフのオンライン活用 | 販売員の接客力をオンラインに活かし、顧客との関係を構築する。 |
①店舗在庫×EC在庫の連携
仕組み
店舗とECの在庫をリアルタイムで統合し、どちらのチャネルからでも最新の在庫状況を確認できる仕組みです。
たとえば、商品ページやアプリ上で「この店舗に在庫があるか」を調べられるほか、位置情報や店舗検索と連動して、最寄りの在庫を表示することもできます。
顧客メリット
来店前に店舗の在庫を確認できるため、売り切れによる無駄足を防げます。
最寄り店舗に商品があるかどうかがすぐにわかることで、探し回る手間も減り、来店の計画が立てやすくなり、安心感と利便性の両方が高まります。
企業メリット
企業にとっても、在庫の可視化と共有は大きな利点があります。
ECで品切れとなった商品を店舗在庫から販売できるため、販売機会の損失を防ぎやすくなります。また、全体の在庫を横断的に管理できることで、過剰在庫や欠品の偏りを調整しやすくなり、結果的に在庫回転率やキャッシュフローの改善にもつながります。
事例
・ユニクロ
ユニクロでは、公式サイトの商品ページからカラーやサイズを選択すると、指定した店舗の在庫状況を確認できます。位置情報をオンにすると、最寄りの店舗が自動的に表示される仕組みになっており、店舗在庫の有無を事前に把握してから来店可能です。
・NIKE
NIKEも同様に、アプリ上で店舗の在庫をリアルタイムに確認できる機能を導入しています。たとえば、アプリから商品バーコードを読み込むことでオンラインと店内の在庫の状況を確認でき、購入可能サイズ、カラーや、商品の情報を確認できます。
②店舗受け取り
仕組み
店舗受け取りでは、ECサイトで注文した商品を自宅に配送してもらうのではなく、近隣の実店舗で受け取れます。ネットの利便性と店舗の即時性を組み合わせた取り組みです。
顧客メリット
自宅までの配送を待つ必要がなく、送料もかからないため、手軽でお得な選択肢として利用されています。最短で即日受け取れるケースも多く、急ぎで商品が欲しいときにも便利です。
企業メリット
企業側にとっても、店舗受け取りの仕組みは多くの利点があります。
宅配コストを抑えられるうえ、不在や再配達といった配送トラブルのリスクを減らせます。さらに、受け取りのために来店した顧客が店内を見て回ることで、関連商品や新商品の購入につながる可能性も高まります。
在庫を店舗に分散して保有できるため、倉庫への負荷を軽減しつつ、店舗の集客促進にも役立つ仕組みです。
事例
・イオン
イオンでは、ネットスーパーの「PickUp!(店舗受け取り)」サービスを展開し、注文を店舗で受け取れる仕組みを整えています。指定した店舗で商品を受け取れるうえ、送料が不要になるケースもあり、多忙な生活の中でも効率的に買い物を済ませられるよう工夫されています。
・セブンイレブン:
セブンイレブンの受け取りサービスでは、ネットで注文した商品などを希望のセブンイレブン店舗で受け取れます。受け取りは店頭レジにて受け取り用バーコード(もしくは16桁の番号)を提示するだけでよく、利便性の高さが魅力です。
③店舗からEC配送
仕組み
注文を受けた際に最寄りの店舗から商品を出荷することで、実店舗を小規模な物流拠点として活用する仕組みです。
顧客メリット
店舗から直接発送することで、顧客のもとに商品が届くまでの時間を短縮できます。また、倉庫に在庫がなくても近くの店舗に在庫があれば、そこから発送することで「在庫切れ」を避け、購入のチャンスを逃さずに済みます。
スピードと在庫確保の両立が可能になり、顧客満足度の向上につながります。
企業メリット
企業にとっても、店頭からのEC発送は在庫と物流の最適化に役立ちます。
倉庫の出荷負担を分散できるため、繁忙期の負荷軽減や配送コストの削減が期待できます。また、店舗で滞留している在庫をEC販売に回すことができ、在庫の回転率を高められる利点もあります。
店舗・倉庫の両方の効率が向上し、全体の物流コストを抑えながら販売機会を広げられる点が大きなメリットです。
事例
・ZARA
アパレルブランドのZARAは、この「店舗からの発送」を積極的に取り入れています。
各店舗の在庫をEC用在庫としても引き当て、顧客の注文を最寄りの店舗から出荷する「マイクロフルフィルメント」戦略を展開。これにより、配送までの時間差を最小限に抑え、在庫の偏りを減らすことに成功しています。
④会員・ポイント・顧客情報の統合
近年、オンラインとオフラインをまたいで買い物をする人が増え、チャネルごとに顧客を分けて管理する従来の方法では、実態を把握しづらくなっています。
こうした中で、店舗とオンラインの顧客情報を一元的に管理し、購買履歴や来店データを分析することで、より深い理解と継続的な関係づくりが可能になります。
仕組み
ECサイトと実店舗の双方で共通の会員IDやポイント制度を導入し、顧客ごとの購買履歴をまとめて管理します。
オンライン購入の履歴だけでなく、店舗での購入情報や来店履歴も同じアカウントで把握できるようにすることで、顧客の行動全体を可視化でき、チャネルを問わない顧客理解が実現します。
顧客メリット
顧客にとっては、どの店舗やサイトで購入しても同じポイントが貯められたり、購買履歴に基づいたおすすめ商品やクーポンが提案されるなど、より自分に合ったサービスを受けられることが大きな利点です。
また、会員情報が共通化されているため、購入や返品、問い合わせなどの手続きを簡単に行える点も魅力です。
企業メリット
企業側にとって、統合された顧客データは大きな資産です。オンラインとオフライン両方の購買行動を可視化することで、顧客一人ひとりの傾向を把握し、より的確なマーケティング施策を打つことができます。
こうしたデータはLTV(顧客生涯価値)の向上にも直結し、再購買の促進や離反防止策の立案にも役立ちます。
事例
・無印良品
無印良品の「MUJI passport」アプリは、ECサイトと店舗での購買データを「MUJIマイル」として統合管理する仕組みを導入しています。ネットストアのアカウントとアプリを連携させることで、オンラインでも店舗でもマイルを貯められ、来店チェックインによる加算も可能です。
アプリ内では購入履歴やお気に入り商品の管理もでき、顧客の購買行動データを活用したきめ細かな提案を実現しています。
参考:【2025/9/9~】MUJI アプリのアカウントの連携方法
また、Tポイントや楽天ポイントのような共通ポイント制度も、異なる企業や店舗を横断して利用できる仕組みとして広く浸透しています。こうした共通基盤は、顧客データの蓄積と再活用を促す重要なプラットフォームという側面も持っています。
⑤店舗スタッフによるオンライン接客・ライブコマース・SNS運用
EC市場の拡大にともない、店舗スタッフがもつ「人の力」をオンライン上でも活かす動きが広がっています。
販売員ならではの提案力や信頼感をデジタル空間に持ち込むことで、これまでにない購買体験を生み出し、顧客満足度と購買率の両方を高めることができます。
仕組み
店舗スタッフのパーソナリティを全面に出し、ECサイトやSNS上で直接接客を行います。チャットやビデオ通話によるオンライン相談のほか、ライブ配信を通じてリアルタイムに商品を紹介するケースも増えています。
スタッフ自身がSNS上でコーディネートや使用例を投稿し、ユーザーとコメントやメッセージを通して交流するなど、双方向のコミュニケーションによる安心感を提供できます。
顧客メリット
お客様にとっては、店舗に行かなくても専門的なアドバイスを受けられるのが大きな魅力です。
スタッフとの会話を通じて不安を解消し、自分に合った商品を選べるため、納得感のある買い物ができます。
また、自宅のクローゼットや生活環境を踏まえた具体的な提案を受けることができ、単なる通販では得られない、より個別化された体験が可能になります。
オンラインでありながら、店舗の温かみを感じられるのがこの仕組みの強みです。
企業メリット
企業側にとっても、店舗スタッフの知識や接客ノウハウをECに展開できることは大きな価値です。スタッフがSNSでブランドの魅力を発信することで、自然な形で集客とファンづくりが進められます。
一人で購入判断をするのに抵抗感を覚えやすい、高価格帯や専門性の高い商品の販売にも適しており、スタッフを通じてブランドの信頼性を高める効果があります。
事例
・バロックジャパンリミテッド
アパレル企業バロックジャパンは、予約制のオンライン接客やライブコマースを展開しています。顧客は店舗スタッフを指名してビデオ通話予約を行い、コーディネートや着こなしの相談が可能です。
参考:バロックジャパンリミテッド公式ニュースリリース(PR TIMES)
・三越伊勢丹
百貨店の三越伊勢丹では、2018年にいち早くライブコマースを導入しています。
お歳暮や催事の時期にあわせ、バイヤーやスタッフがゲストとともに商品を紹介し、リアルタイムで質問に答える双方向型の配信を実施。映像による臨場感と専門知識を融合させ、オンラインでも百貨店品質の接客体験を実現しています。







