
ユーザーが商品をカートに入れたにもかかわらず、購入に至らない「かご落ち」は多くのサイトが抱える共通の課題です。
ユーザーが購入をためらう背景には、商品そのものの価値不足よりも「不安」「面倒」といった心理的ハードルがあります。これらの「買わない理由」を取り除くことができれば、購入率は自然に改善していきます。
本記事では、実務的な視点からかご落ちの原因と対策を整理し、実際の改善事例も紹介していきます。
目次
かご落ちはなぜ起こる?買わない理由の正体

「かご落ち」とは、ユーザーが商品をカートに入れたにもかかわらず、最終的に購入に至らず離脱してしまった状態です。ECサイト運営者にとってはよくおこる課題であり、売上にも大きく影響します。
とくに注意すべきなのが「カート到達率が高いのにコンバージョン率(CVR)が低い」ケースです。つまり、商品に一定の興味を持っているユーザーがカートまで進んでいるにもかかわらず、購入完了まで至っていない状態です。
ここで重要なのは、買わない理由の正体が「商品に魅力がない」からではなく、不安(本当に届くのか/返品できるのか)、迷い(他の商品と比較中/レビュー不足)、面倒(会員登録や決済の手間)といった、心理的・操作的なハードルにあるという点です。
このようなかご落ちを改善するには、まず「なぜ買わないのか」を深掘りして理解することから始める必要があります。表面的な対策ではなく、ユーザー心理に寄り添った設計が欠かせません。
かご落ち率の目安と計算方法
ECサイトのかかえる課題を把握するためには、まず「かご落ち率」を数値で確認することが重要です。
計算方法はシンプルで、以下の式を使います。
かご落ち率 = (カート到達数 − 購入完了数) ÷ カート到達数
EC業界の平均では、かご落ち率はおおよそ70%前後といわれています。つまり、10人がカートに進んだとしても、最終的に購入まで至るのは3人程度に過ぎないということです。
かご落ち率が高い数値になることも珍しくはなく、必ずしも異常ではありませんが、自社の現状を客観的に評価する基準になります。
「今は買わない」3つの心理的ハードル
ユーザーがカートに商品を入れたのに「やっぱり今は買わなくていいか」と判断する理由は、商品の魅力の低さではなく、「不安・迷い・面倒」といった場合が多いといわれています。
- 不安(不確定要素)
返品や交換ポリシーが分かりにくい、サイトのセキュリティに不安がある、商品がいつ届くのか、本当に届くのか疑問が残る、など。 - 迷い(判断材料の不足)
他の商品と比較している、レビューが不足していて使用感が分からない、サイズや用途が具体的にイメージできない、など - 面倒(手続きの煩雑さ)
会員登録を強制される、決済画面が複雑、スマホで操作しづらい、など
このように、かご落ちの背景には購入までの心理的・操作的なハードルが存在しています。これらにつまずいてしまうとユーザーは購入をあきらめてしまいがちです。
まずは自社サイトの「つまずきポイント」を洗い出し、改善していくことが効果的な第一歩になります。
かご落ちチェックリスト!見逃しがちな買わない理由
かご落ちを防ぐには、「自社サイトにどんな離脱要因が潜んでいるのか」を一つずつ確認することが欠かせません。
以下のチェックリストは、見落とされがちなつまずきポイントを整理したものです。当てはまる項目が多いほど、改善の余地が大きいといえます。
会員登録しないと購入できない
会員登録のための情報入力は面倒なもの。ゲスト購入ができないサイトは、初めて利用するユーザーにとって大きなハードルになります。「登録なしで購入」できる選択肢を用意しているか確認しましょう。
送料・手数料が後出しになっている
商品ページやランディングページに送料・手数料が明記されていないと、決済直前に予期せぬコストが発覚し、「高いな」と感じて離脱につながります。費用を早い段階で提示できているかチェックしてください。
決済方法が限定的
銀行振込のみといった限定的な決済手段は、購買機会を逃す大きな要因です。クレジットカード、PayPay、コンビニ払い、後払いなど、多様な手段を備えているか確認しましょう。
スマホで使いにくい箇所がある
ユーザーの多くはスマホからECサイトを閲覧しています。小さな画面でも使いやすい設計になっているかは重要です。入力フォームの複雑さや、ボタンの位置が分かりにくいなど、スマホUI特有の課題を見逃していないか確認しておきましょう。とくに、カートから決済完了までの導線に操作しにくさがないかは入念なチェックが必要です。
カート内にレビューや安心要素がない
最後の決断を後押しするレビュー、返品保証、よくある質問などの「安心情報」がカート画面に不足していると、ユーザーは購入をためらいます。
商品在庫や配送日時が不透明
欲しいタイミングで届くか分からない、在庫があるのか不明確、といった疑問も大きな不安要素です。カート画面で「配送予定日」や「在庫状況」を明示できているか確認しましょう。
セキュリティ表示が不十分
決済画面にSSLやセキュリティ認証の表示がなければ、安全面の不安から離脱される可能性があります。ユーザーが安心できる仕組みを示せているかを見直してください。
このリストに「YES」が多い場合は、それだけ改善できるポイントがあるということです。ひとつずつ潰していくことで、ユーザーの不安や迷いを減らし、コンバージョン率(CVR)の改善につながります。
おすすめのかご落ち対策8選

引用元: https://pixabay.com/photos/digital-marketing-technology-1433427/
かご落ちは、多くのECサイトが直面する共通の課題ですが、自社の現状に照らし合わせながら、適切な対策を講じることで改善することができます。ここでは、とくに効果が高く、多くのEC運営者にとって実行しやすい8つの施策を紹介します。
1. ゲスト購入を導入する
「会員登録をしないと購入できない」という仕様は、初めての利用者にとって大きな離脱要因となります。登録なしで買い物できる「ゲスト購入」を可能にすることで、スムーズに購入完了まで導くことができます。
購入後に「会員登録するとポイントやクーポンを付与」など任意の施策を講じれば、無理なく会員化にもつなげられます。
2. 送料・手数料を事前に明記する
送料や手数料が決済直前まで分からないと、ユーザーは不安を感じて離脱してしまいます。商品ページやフッターに送料・手数料の案内を記載するだけでなく、「〇円以上で送料無料」など購入を後押しする情報を商品ページにあわせて提示すると効果的です。
3. 支払い方法を増やす
銀行振込やクレジットカードのみ、といった限定的な決済手段では、多様なニーズに対応できず、購入機会を逃す原因になります。PayPayやコンビニ払い、後払いなどを導入し、幅広いユーザーが利用できる環境を整えましょう。カードが使えなかった人には、別の決済方法へ誘導する工夫も必要です。
4. カートに安心材料を表示する
購入まで一歩手前のカート画面では、ユーザーが「本当にこれで良いのか」と迷いや不安を抱えやすいものです。レビューや返品保証、よくある質問などをカート画面に表示し、安心して購入に進める環境を整えることが有効です。
5. スマホUIを最適化
EC利用者の大多数がスマホユーザーである今、スマホでの操作性はかご落ち率に直結します。カートから商品ページに戻る・購入商品の編集・ボタンの押しやすさといった、操作の分かりやすさを重視しましょう。
また、一定時間商品をキープできる「商品キープ機能」などは、売り切れの心配なく落ち着いて検討できるため、ユーザーの離脱防止に役立ちます。
6. リマインド通知の自動化
一度カートに入れたあと離脱してしまった商品は、そのまま時間が経つと忘れられてしまいます。かご落ちしてしまった顧客に対しては、メールやLINEを使って自動でリマインドを行うことが効果的です。
カートに入れて一定期間が経過した商品に対して「この商品、まだお悩み中ですか?」といった柔らかい文面に特典を添えたメッセージを送ることで、再訪問と購入を促せます。
7. カート内に“購入を後押しする工夫”を入れる
購入を迷っているユーザーには「今買う理由」を示すことが重要です。 「残り〇点」や「〇〇日まで送料無料」といった限定感のある表示は決断を後押ししてくれます。また、時間・期間限定販売機能を活用することも効果的です。
さらに、先述の商品キープ機能も一定時間しか取り置きができないため、「あと〇〇分で商品がキャンセルされます」といった訴求ができ、「今買わなければ」と思わせる動機づけが可能です。
8. かご落ちに強いプラットフォームを選ぶ
ECサイトの基盤となるプラットフォーム選びも、かご落ち率に影響します。初心者でも簡単にECサイトを構築できるサービスもありますが、「かご落ちに強い」と断言できる根拠が薄い場合は、かご落ち対策機能がしっかりしているASPを選ぶことが無難です。
たとえば、多様な決済手段への対応、返品やセキュリティ面での安心感、SSLやISMS認証などの信頼性が整っているサービスかどうかを重視しましょう。
中長期で効く“心理的”かご落ち対策

これまで紹介した具体的な施策は、すぐに取り組める改善方法です。しかし、短期的な施策だけでは限界があります。
「初心者」「中級者」「サイトの規模」を問わず、長期的に安定した売上を維持するためには、ユーザー心理に基づいた改善が欠かせません。施策に取り組む前に、まずは以下の視点で自社サイトを見直してみましょう。ただしい現状把握こそが、費用対効果の高い改善につながります。
1. ベネフィット訴求(購入後の未来をイメージさせる)
ユーザーは商品に強い魅力を感じても、実際に購入する段階になると「本当に必要だろうか」と迷うものです。このとき効果を発揮するのが、購入後の状態を具体的に想像させるような工夫です。
たとえば「このデスクチェアを使えば、在宅ワークが快適になり腰痛の不安も軽減されます」「このアクセサリーを身に付ければ、顔周りをスッキリさせ、さりげない華やかさを添えられます」といった未来像を提示することで、ユーザーは購入後の自分をイメージしやすくなり、決断を強く後押ししてくれます。
2. 限定感・希少性の演出
「欲しいけれど、今すぐ買わなくてもいいか」と冷静になってしまう心理も、多くのユーザーに共通しています。こうした“保留”の心理ハードルを超えるには、限定性や希少性を示すことが有効です。
「残りわずか」「期間限定」「先着〇名」といったメッセージは、ユーザーに「今行動しないと手に入らないかもしれない」と思わせ、購入の判断に進みやすくなります。いましか手に入らない、という希少性は心理学的にも購買意欲を高める要因として知られており、実際のECサイトでもコンバージョン改善に直結する施策です。
3. 「最近閲覧した商品」「他の人はこんな商品も」などの提案要素
カートまで進んだユーザーは、「この商品で本当にいいのか」「もっと良い選択肢があるのでは」と比較検討モードに入っている場合が多いです。その心理に寄り添うために有効なのが、レコメンド機能の活用です。
「最近閲覧した商品」や「他の人はこんな商品も購入しています」といった情報を表示することで、ユーザーはより安心して選択できます。自分では気づかなかった選択肢を提示されることで、購買体験そのものが豊かになり、結果的にかご落ちの防止につながります。
【成功事例】かご落ち率を改善したECサイトの工夫

かご落ち対策は理論だけでなく、実際の成功事例から学ぶことが非常に有効です。ここでは、異なる業界で成果を上げた3つの事例を紹介します。
ChooMia

引用元: https://choomia.com/
アクセサリーEC「ChooMia」では、ユーザーがカート画面からブラウザバックした際に、クーポンのオファーバナーを表示する仕組みを導入しました。
このバナーは1回だけ表示され、2回目以降は出ない仕様とすることで、ユーザーに「今だけのオファー」と感じさせる設計になっています。
過剰な訴求による不信感を避けつつ、自然に購買を後押しする仕組みはシンプルながら効果的な施策で成果を上げています。とくに、アクセサリーやファッションECのような競合が多い領域では、このように簡潔で効果的な施策が他ブランドとの差別化にもつながります。
AUEN

30〜40代向けのメンズファッションを扱う「AUEN」は、サイト全体をリニューアルし、セット販売や定期購入プランを導入しました。その結果ユーザー体験が向上し、売上回復につながりました。
とくに注目すべきは、アプリ利用者数の増加です。公式アプリのダウンロード数は25万件を超え、アプリ経由の再来訪が増えることで、カート放棄後のリカバリーが容易になりました。
また、購入後のフォローや問い合わせへのスピーディーな対応も、ユーザーの安心感につながり、かご落ち率の改善要因となっています。
スペースマーケット

引用元: https://www.spacemarket.com/
国内最大級のレンタルスペースのマッチングサービス「スペースマーケット」では、ユーザーとのコンタクトに複数のチャネルを利用していたものの、横断的なメッセージ送信や内容の最適化が不十分でした。
そこで、マーケティングオートメーションツール「Braze」を導入。課題であったユーザーへのフォローアップを改善し、成約率は1.4倍、CVR108%と大きく成果を出しています。







